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業界の常識?世間の非常識?(その三)

今時こんな感覚を持っている工事業者がいるもんだと感心(あきれ)させられることが起きました。 

建築工事も企業間あるいは役所との取引である限り、口頭であろうと書面であろうと契約と言う概念は存在します。建築生産の現場では、発注者(建築主)・設計者・監理者・施工者(元請業者)などの立場の人が関係してきます。 

ここで実際に起きたことを紹介し参考にして頂きたいと思います。

ある建築主(某役所)が私たちの事務所に設計監理を依頼した案件があります。当然役所と私の事務所とは委託契約を結び業務(設計)を進めます。そして設計書をベースとして、入札を執行し工事業者を決定します。そして工事請負契約の締結後工事に着手となるのですが、工事請負契約書には契約書ならびに約款・工事仕様書・設計図・入札見積書・場合によれば付帯書類を綴じこむこともあります。

契約書には、金額・支払い方法と時期・工事仕様書や設計図、入札見積書には、使用材料・寸法・工法・仕上・メーカーなど事細かく詳細に記載されています。これらの事項の全てが契約事項となるので、請負業者は任意に変更を許されなくなっているのです。 

この度、許されていないはずの事が起きたのです。そこで事の顛末をご紹介します。 

設計段階で特殊な建材を特定のメーカー指定を行なって設計していました。工事監理の段階で事が生じました。と言うより暴走が発生しました。

工事業者が指定メーカー以外のメーカーの製作図を提出してきました。当然監理者としては契約にない事項を認めることは許されません。そんなことをすれば建築主に対して信頼を失いかねないのですから。当然工事業者も設計内容を理解した条件で受注したわけですし、なお且つ入札見積書にも設計図書に指定したメーカー名も記載していました。これでは勝手に変えること事態もすでに矛盾だと思います。 

そうこうしている内、先方の出方が「建築主が良いといえば変えてもいいだろう」と言い出しました。このことは監理者の立場などたかが知れているくらいに思っているのか、自分の言い分を通すためには「他人の立場など知ったことか」となったのです。 

設計監理者は建築時に建築主の代理を行う立場なのです。工事予算と施工品質の審査、そして完成時の検査と支払い調書をもって、建築主が適切な費用で適切な建築物を提供されるお手伝いをしているのです。だから「建築主が良いといえば変えてもいいだろう」で直接の談判は、建築主にも大きな迷惑なのです。 

このような時代錯誤の業者が未だウヨウヨいるのです。今日、医者でも弁護士でもお客様に納得してもらうために説明責任があり、当然契約と異なる事項を協議するのであれば、それ相応のやむをえない事情を納得してもらう努力は必要だろうと思います。 

そして、その業者は発注者である役所に電話することとなったのでしょう。ここで役所として発注者の対応がひとつの課題となります。役所だから発注するに公平・公開で入札を行なって業者を決めなければならないのですから、ここまでは適正な手続きでも、契約内容を業者の要求に応じて「予期に計らえ」とまでは口が裂けてもいえないはずです。

役所の回答はやはり「我々は建築の素人だから設計監理を設計事務所にお願いしている。だから監理者の指導に従ってください」とすごく良識のある回答をして頂きました。 

以上のことを別の角度で見るとすれば、この業者は設計監理者の関与は承知のうえで、工事代金の受領は設計監理者ではなく、発注者である役所だから、お金を支払うところに権限があると考えたのかもしれません。役所はなぜ設計監理の費用負担をしてまでこのようなシステムをとるのかと言えば、税金と言う公金を扱うがために一定の品質保全が求められているからです。

民間工事で設計監理者の存在なくしてこのような工事業者に発注したらどのような事になるのか想像してみてください。自分の都合で利益確保のためには手段を選ばない? 

どのような仕事でも、発注者であるお客様に対し、愛情は必要だと思います。そのために自らの意思で契約したことは最低限守って欲しいと思います。契約を忠実に履行しないと契約違反や背任となることの認識も薄いのでしょう。 

業界のある方が言いました。「設計施工はドロボーに金庫番をさせているようなものだ」と。少し言い過ぎた言葉かもしれません。 

この顛末はこのような状況に展開しているので、その後の業者殿の対応に興味が出てきました。

気を付けなければいけないのは、請負業者が口にする「任せろ」「大丈夫」この言葉です。

素人の方でも何かおかしいと第六感に響いたら、立ち止まって考え慎重に返答することです。意思決定は自分のペースで行なうことが大切だろうと思います。 

そのためにはやはり信頼のおける専門家のアドバイスも必要に応じて活用されることをお奨めします。

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