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建診協には電話やお手紙でご相談が多く寄せられます。
その中で大規模修繕工事について、どのような手続きで業者が決まったのか分らない。理事長が管理会社に丸投げで困っている。工事が始まったのだがタイルの浮きが多くて多額の追加が出て困っている。工事金額多額で積立金が殆んどなくなってしまう。等などお問合せは多種多様です。しかし当方が関与していない案件では残念ながら一般論での内容でしかお答えできないのです。理由は取引関係の当事者ではないから具体論ではお答えできないからです。

大規模修繕に限らず人情として“高品質で低価格”を求めるのは当然ですが、マンションの場合は「公平・公正・公開」の原則があります。
大規模修繕工事は区分所有者全員から集めた“公金”とも言える資金を原資に行うものだから当然と言えば当然です。
大規模修繕のクライマックスは業者選定にあります。この選定プロセスを明快にし、情報公開に耐えうるものとして記録しなければ、特定の人が何かで利益を得ているのではないのかといったことで、マンションのコミュニティを破壊することにも繋がりかねません。
ここでは本当に管理組合の力量が試される場面となります。
とは言っても、大規模修繕工事ともなると建築の専門家の力も得なければなりません。その際、誰を管理組合の味方につけるかが問題となります。管理会社?設計事務所?工事会社?自分たち管理組合で?

重要なのは工事で利益を得ない第三者的な立場で、管理組合の利益を優先して行動できる人でなければなりません。
その役割は、大規模修繕といったハード面だけではなく、管理組合の運営が適正かつ円滑に進められるようソフト面についても十分サポートできる、マンションの事を良く知っていて大規模修繕工事の経験と実績を持った人が望ましいと思います。

ここで注意が必要です。表面的には第三者的な立場を取っているが、業者にバックリベートを要求する。業務を自らやらず丸投げする。業務費用が明確でない。大規模修繕工事でいつも同じ組み合わせの業者がいる。これらは注意が必要です。
もちろん他のマンションからの評価も委託先選定の重要なポイントとなるでしょう。

プレジデント2008年3月号に掲載された、経営コンサルタントの矢内世夫氏の記事を紹介します。
記事の内容は「管理の差で、生涯1000万円の差が出る!」というもので、記事の一部を紹介します。
私は過去30年の間に七つのマンションを購入し、そのすべてで管理組合の理事や理事長を経験した。それらの経験から「マンションの資産価値を守るのは管理会社ではない。あくまでも所有者本人たちの自己責任である」といえる。
ところが実際には、すべてを管理会社任せにしてしまうケースが大半だ。マンション購入には熱心なのに、購入後の管理については「無関心」かつ「勉強不足」の組合員が多すぎる。これでは管理会社の思うツボで、数年後に管理費の値上げや、15~20年先には大規模修繕資金が不足して50万~100万円を臨時徴収される可能性さえあるのだ。
一方で、自分たちが勉強し、知恵をつけたことで、管理委託費を50%以上も下げることに成功したケースもある。例えば、管理費の内訳を精査し、他マンションの事例と比較したり、他の管理会社への見積もりを発注したりすることで、管理費は大幅に変わってくる。管理会社の言いなりではなく、理事会は「管理に見合うサービスが提供されているか」という問題意識を常に持ち、業務内容をチェックすべきだ。

維持管理は新築時より、建物の劣化が目立ち始める築15年以降になると段々に難しくなる。大規模修繕に必要な予算が不足し、工事がおざなりになって建物がスラム化に向かう恐れがあるからだ。さらに、組合員が高齢化して理事のなり手がいなくなる悪循環も増えている。

小生も矢内氏の記事に同感で、ある勉強会の会場で「うちのマンションは管理会社変更で年間60万円下がった」と言われた方がいました。60万円だったら10年間で600万円となります。あながち1000万円の差が出るといった話は絵空事ではないのです。大規模修繕工事の予算が600万円増える事は、劣化予防的な工事も十分可能となるのです。
さらに別の方からの発言で、管理会社から「管理会社は変えられない」と言われているが・・・。
そうすると別の方が「うちのマンションは3回も変更した」「変更ができないなどウソだ」と言われると、最初の方の反応は「えー、できるの!?」でした。やはり知識を取り入れる努力は損得に反映されることも実感させられた勉強会でした。

商取引の原則

お付き合いと取引を混同していませんか?
一般の企業だったら契約を適正に履行していなかったら、改善の要求、さらには即取引停止となるのが常識です。
ところがマンションの管理委託契約の場合、「管理人さんがいい人だから」といったこと具合で、委託契約の履行がきちんとなされていなくとも改善要求が出されていない場合が多くあります。契約事項の履行要求を厳しく行なわないマンションは、管理会社主導の運営がなされるようになります。管理会社に理事会を委ねてしまう事は、そのマンション全体の命運をゆだねる結果となり、行き着く末は大事なお金を浪費してしまう事が目に見えています。このようなことを一般の会社で行えば、相伴会社は倒産となるでしょう。

よく管理組合の方が、管理会社の良くない部分の不満を言われますが、管理会社をいくら変更しても、管理組合の自立がなされていなければ事態は改善されないと思います。やはり見識と筋の通ったリーダーシップを発揮される理事長さんの下では管理会社との間でも緊張関係を保ち、フロントマンのアドバイスに対しても響いてもらえる理事会であれば管理会社のフロントマンも生きがいを感じると思います。
逆の見方をすれば、何を言っても響かない管理組合に対しては、「やる気が出ない」と言われても仕方が無いのです。

電子ブレーカー、AED設置、消火器、水道メーター、排気ダクトの洗浄、防犯カメラ。
これらの事は、管理会社から管理組合に提案された案件です。これらの設備がはたして管理組合の安全性や利便性にどのくらい寄与しているのか。もしくは効果のあるものなのか。一番疑問に思うことは、提案の本質が十分理解されているかが問われていると思います。

以前建診協のセミナーで、マンション管理センターの講師の方が講演の中で言われました。「契約に無い事を管理業者が言い出したら気をつけてください。」
例えば電子ブレーカーの件を考えてみると、電子ブレーカー=電気料金が下がるのではないのです。電力会社との低圧負荷契約から、開閉器契約に変更し、受電容量を少なくするから基本料金が安くなるのです。何も電子ブレーカーでなくても通常のブレーカーでも構わないのです。電子ブレーカーとするのは、ブレーカーの費用が高額設定なので、レンタル契約・リース契約を勧めるのです。実際に電子ブレーカーの費用は30万円程度から50万円を越える設定がみられ大きな価格の開きがあるようです。
あるマンションでは、レンタル契約だったために、撤去費用を管理会社にしつこく問いただしたら、買取となったと聞いています。レンタル契約は管理組合の建物に管理会社の所有物が設置されている事であり、管理組合が自由に撤去できない契約なのです。当然勝手に処分するといくらの請求が発生するのかも不明です。

もう一度、マンション管理センターの講師の方が言われた「契約に無い事を管理業者が言い出したら気をつけてください。」を思い起こして欲しいと思います。

私(黒瀬)が講師をつとめるこの勉強会も平成20年から中四国の主要都市で定期的に行い、管理組合の参加者も500名を越えようとしています。毎回勉強会では参加者の方々からご感想をお聞きしていますが、今回匿名でならOKということで紹介させて頂きます。

A様のご感想です。
修繕委員長をしています。15年度の予定です。今年から勉強を始めたところですが、管理会社丸投げの工事を止めさせようと日々かけ廻っています。管理組合側をどうやって納得させるか・・・。
今日、当協会(建診協のこと)を知り、希望の光を見つけた気分です。日時があえば、当マンションの理事会、居住者に説明会を開いてもらいたいものです。
何とか自分なりにかみくだいて居住者等に説明したいと思います。その折には知恵をお借りしたいので相談させて下さい。
ありがとうございました。

大変感激するご意見でした。当協会も「建診教 希望の光」とでもしたらと思わせられるご意見でした。
勉強会を通じて多くの皆さんからお電話を頂くようになりました。大変ありがとうございます。マンションのことなら何でも構いません。ご一報下さい。必ずご返事申し上げます。

一般の方でこのことを知っている人は少ないと思います。
これは建築物のタイル剥落の重大性を争われた訴訟の事です。
福岡地裁で提訴されたタイルの浮きに伴う瑕疵がどのように問われるかで、最高裁まで争われました。10年以上の訴訟で最高裁の判決は「建物の基本的な安全性を損なう瑕疵とは、居住者等の生命財産に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らず、放置していれば危険が現実化する事になる場合も瑕疵に該当する」としている衝撃的なものでした。

現在香川県内で同様の問題の相談を受けているマンションがあります。
管理組合の姿勢が一枚岩か否かで、販売主側の対応も大きく異なるようです。別府マンション事件後で外壁タイルの剥落リスクにどのように向き合うのか。
建物改修材メーカーからは様々な製品が開発されてきていますが、どれをとってもかなりの費用がかかります。

私の経験から言えば、タイルの浮きは全くといって良いほど存在しない建物がある一方、全面的な浮きのある建物も多くあります。
専門的な技術論は割愛するが、高層部にタイルを貼る事を禁止している国もあるくらいですから、タイル問題がこの国でも今後大きな問題として論議される日が来るかもしれない。

タイルの剥落の写真です。(某市内)

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お断りしておきますが、全くタイルの浮きのないマンションや建物もあることも事実です。あるマンションのことです。大規模修繕の調査を実施した際、タイルの浮きを探すのが大変(良いこと)だった経験もあります。

いずれにせよ、建築物も健康に産んで健康に育てる事が当然のこととなることを願っています。

現場の今

アベノミクスのこともあってか、建設業界は多忙となっている。でも受注単価はバブル期のように高騰もしていない。

前政権の「コンクリートから人へ」で公共投資が抑制されていたが、新政権での「国土強靭化政策」もあって、耐震などの工事が一気に増した感である。

もちろん東日本の復興需要や消費税に関する駆け込み需要もあるだろう。
何せ20年間の緊縮市場が一気に活性化しても、人手不足・資材不足。
経営者だってかつての苦しい緊縮経営を思い起こせばおいそれと体制拡大の気持ちにはなりえないと思う。

結局回りまわって一般市民への影響が避けられない。
ここは地道に出来る事をしっかりやっていくしかないのだろう。

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100年後を考えたストック建築も、
今までの設計思想を変えると可能となります。
建診協は今だけではなく、未来も見定めて進みます。