社会人になって褒められることはあまりないと思います。褒められるどころかクレームの対処に疲れる。最近では○○モンスターなどといって、一方的なクレームに出くわし対処方法にほとほとくたびれるといったこともまま見受けられます。
褒められるといえば、昔は地方の役場などの仕事が完了した時点で、金一封と感謝状贈呈といったことがよくありましたが、近年ではそのようなことは一切なくなりました。
では褒められるとはどのようなことかと考えてみると、ビジネスの世界では、「いい仕事をしたね。次回も頼むよ」これが褒められることでしょう。仕事ぶりを評価して頂いて、満足していただいたからこそ、継続的に仕事の依頼がくる。このことはビジネスの世界で最も目指ざさなければならない方向だと思います。ところがその場限りの仕事と考えているのかどうかわからないが、次につながる評価を得ようとしない業者の方がいることは残念です。
マンションの大規模修繕の設計監理のことで最近うれしいことがありました。それは業務中にもかかわらず、「次回もやっていただきたい」とのお言葉でした。小生は「15年先までこの仕事をやっていないかもしれません」と申しましたら、「後継の方を育成してください」という大変うれしいお言葉でした。また別の管理組合の方からは、「ありがとうだけでは申し訳ない。何か形になるもので伝えよう」ということで、本当にありがたいお礼の印を頂きました。このような行為をして頂くことは、小生にとっての励みにもなるし、次のお客様のためにも気を引き締めて頑張ろう。そして社会にとって役に立つ仕事をしているのだなという実感も得られることです。
一般の市民の方から褒められ頼りにされている限り、ビジネスの世界においても存在してゆける糧だと思われる次第です。
マンションの勉強会などで、参加者から耐震診断について相談されることがあります。地震が来てもマンションが大丈夫なのだろうか? 現実、耐震補強工事ができるのか否かの問題もあります。
ここで国の耐震診断に対する政策について理解しておきましょう。平成25年に改正された「耐震改修促進法」によると、法改正のひとつとして、大規模建築物等に係る耐震診断結果の報告の義務付けがあります。対象となる建築物は、昭和56年5月31日以前に建てられた一定規模以上の幼稚園・保育園、小・中学校、老人ホーム、ホテル・旅館、美術館・図書館などです。この中で公立の幼稚園・保育園、小・中学校などは平成27年度までに100%の耐震化率を達成する目標となっています。
このたびの改正では、マンションを含む住宅や小規模建築物についても、耐震診断及び必要に応じた耐震改修の努力義務が創設されています。
耐震診断には国や各自治体からの補助制度も整備されているが、法的に義務付けられた建築物以外の耐震診断はあまり進んでいません。その理由は耐震診断、そして耐震改修工事に多額の資金が必要となるからです。
しかし法的に義務付けられたホテル・旅館などの施設では、多額の費用がかかっても耐震診断を行って、そして耐震補強工事まで進むのか、もしくは廃業するのかといった、経営的に重大な決断が迫られるのです。
「耐震改修促進法」をクリアした建築物には、「基準適合認定建築物マーク」が付与されるので、消防法の丸適マークを取得するのと同様に、これらの表示のない施設であればお客様に対するアピールもできないこととなるでしょう。
マンションの場合は、費用は別としても居住者が生活している中で実際に補強工事ができるのか、環境的な制約や技術的な制約などで補強方法は限定されます。しかし耐震改修の努力義務は存在します。
先日マンション勉強会で、参加者の方から質問がありました。
大規模修繕工事に向けて手続きが進行しているのだが、「工事予定額が積立金の予算をオーバーした。どうしたらよいのか?」といった趣旨の質問でした。もちろん私たちが関与していない別のパートナーの案件です。
ご質問の回答としては、火急的な事項のものとか、その他積み残してもやむを得ない部分とか、優先順位をつけて進めるしかないでしょう。資金不足は先送りするか、一時金の負担か、借り入れを考えるかなど、対応策の方法はあまりありません。「だからパートナーと工事内容を含めその辺りをよく相談されたらいかがですか」とお答えしました。
引き続きの質問者発言が、パートナーは「すべて実施しなければいけないと言っている」でした。これには少々驚いたのです。だって資金手当ての出来ない工事など考えられないのですから。
普通の感覚を持った設計者がパートナーだったら、工事内容と予算のバランスを計りながら次のステップに進むことが当然だと考えているからです。ましてや修繕積立金の取り崩しは将来なにか必要に迫られた出費が生じることを考えると、100%の取り崩しは危険であり、私たちの場合は「80%程度にしてください」と管理組合には進言しています。
この質問にあるように、大規模修繕工事の資金手当て(予算)が足りないといった話は時々耳にします。このように予算不足に対し、管理組合の側に立って適切なアドバイスができるパートナー(設計者)を味方に付けることは、単に技術的なことだけではなく、皆さんが毎月積み立てた大切な資産を効率的で適切に活用するうえで大変重要だと思います。
あまりにも委託金額の高い安いだけでパートナーを選定している管理組合の多さに、一抹の危うさを感じます。
建物は建てた瞬間から劣化が始まります。そしてその劣化は年数とともに増してゆきます。だから日常的なメンテナンスや修繕は欠かせません。
しかし日常的に維持保全活動を行っていても、およそ10年から15年程度経過してくると、大規模な点検と修繕工事が必要となります。これが計画修繕なのです。
分譲マンションの場合は、区分所有者によって毎月毎月大規模な修繕工事に備えて資金の積み立てを行っていることは、マンションを長く使い続けるうえでは大変よくできた制度だと思います。
大規模修繕工事の時期については、建物の外壁が汚れてきた。長期修繕計画で定められている時期が来たから。などが挙げられますが、やはり建物の劣化進行状況と劣化内容によって実態に即した判断が望ましいと思います。そのためにも長期修繕計画は5年程度ごとにチェックを行い、建物の実態と計画のずれを補正してゆくことは大切なことでしょう。
そこで毎月の積立金の適正額はいったいどのくらいなのだろうか?国土交通省公表の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」によれば、専有床面積当たりの修繕積立金の額は、一般的なマンションを例にとると平均値として、 ①5,000㎡未満:218円/㎡・月 ②5,000~10,000㎡:202円/㎡・月 ③10,000㎡以上:178円/㎡・月となっている。
しかし実際は平均額ほどの積立金を実施しているマンションがどれ位あるのかはわかりませんが、マンションは第1回目より2回目、2回目より3回目と修繕項目も増え工事金額も増してきます。もちろん計画の中で修繕項目が不要となる、あるいは先延ばしできるなど、計画には不確定な要素が多くあります。だからと言って長期修繕計画に、不要な項目として削除した計画には資金的なリスクを伴います。
新築分譲時には購入負担低減のために、修繕積立金の一時払いや積立額を低く抑えている傾向がみられますが、5年程度経過した時点で将来を見越した長期修繕計画の見直しは欠かせないと思います。そして修繕計画の作成は、マンションの大規模修繕を熟知した専門家(建築士)が行うことも実態との整合性を求めるうえで大切かと思われます。